タイのポーカー業界に、かつてない衝撃が走った。
2025年10月22日、現首相兼内務大臣のアヌティン・チャーンウィラクン(Anutin Charnvirakul)氏が、
ポーカーおよびタイの伝統カードゲーム「パーイハー」を「スポーツ競技」から除外する新たな内務省令に署名。
これにより、今年7月に前政権が認めていたポーカーの“マインドスポーツ”としての合法枠組みは即日廃止となった。

この決定によって、タイ国内で合法的に行われていたトーナメントやクラブ運営は一夜にして違法化。
再び「賭博行為」として全面的に禁止される事態に陥った。
わずか数カ月前の熱狂──WPT Prime Thailandの成功
ほんの数カ月前、タイは“アジアのポーカーハブ”として注目を集めていた。
7月30日から8月5日にかけて、バンコクの複合モール「EMSPHERE」で開催された
『World Poker Tour Prime Thailand Exhibition』は、タイ史上初の公式WPTイベントとして歴史に刻まれた。

参加者は2,337エントリーを記録。
これは世界大会史上でもトップクラスの規模での開催となった。
メインイベントの優勝を勝ち取ったのはとなったのは中国のハオラン・スン(Haoran Sun)。
賞金約3,500万円(11,477,000バーツ)と、WPTラスベガスへのシード権を手にした。
さらに同大会は、タイ観光スポーツ省の正式支援を受けて実施。
WPT Globalのデジタル通貨「Passport Dollars(パスポートダラー)」が導入され、
旅費や宿泊費にも使える“健全なマインドスポーツ経済圏”の試みとしても注目を浴びていた。
国家が正式にポーカーを「マインドスポーツ」と認めたその瞬間から、わずか半年。
今回の禁止令は、まさに“夢の終焉”を象徴する出来事となった。
IR構想の崩壊と賭博規制強化の連鎖
The Bhumjaithai-led government has reversed another regulation under the Pheu Thai-led administration by banning poker.
— Thai Enquirer (@ThaiEnquirer) October 22, 2025
The earlier order, issued under the Pheu Thai government, had lifted a decades-old ban, allowing poker to be played as a sport under Thailand’s Gambling Act.… pic.twitter.com/de8Rq5215c
今回の禁止令の背景には、7月に撤回されたIR(統合型リゾート)法案の存在がある。
当初、政府は2029年の開業を目指し、
バンコク・プーケット・パタヤなど5都市でカジノを含むIRを建設する計画を推進。
年間観光客5,000万人・雇用4万人・税収1,200兆円規模の経済効果が期待されていた。
しかし、仏教団体や保守層から
「賭博は国を堕落させる」との批判が噴出。
NIDA世論調査では59%が反対を表明し、7月9日に法案は下院審議から除外された。
これを受け、アヌティン首相は就任直後の9月に
「カジノは国家の解決策ではない」
と発言。
その結果、IRとともにポーカーの合法化政策も“賭博推進の象徴”として葬られることとなった。
現場では閉鎖ドミノ、摘発強化の動きも

内務省令第3179/2568は即日発効となる。
首都バンコクやチェンマイ、プーケットのポーカークラブは閉鎖を余儀なくされ、警察当局は「違法賭博撲滅キャンペーン」を開始。
無許可営業には最大5年の禁固刑と罰金が科せられるということで店舗・ディーラー・プレイヤーは大きな影響を受けている。
まとめ
今回の決定は、タイのポーカー産業だけでなく、アジア全体のマインドスポーツ発展に冷や水を浴びせるものとなった。
しかし、若者層を中心に「ポーカー=知的競技」という認識は確実に根付きつつある。
一度「スポーツ」として認められたという事実は、歴史から消えることはない。
国際社会が引き続き声を上げ続けることで、再び法改正の議論が再燃する可能性もあるだろう。
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